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2017年6月5日月曜日

芝・とうふ屋うかい~増上寺

今日は、姉の誕生日祝いのリクエストで、芝の「とうふ屋うかい」に行ってきた。
日本庭園が素敵な料亭であることは、ウェブサイトで見て知っていたが、実際訪れてみると、洗練された庭と料理による「御もてなし」は、想像以上に素晴らしく、感動的ですらあった。

まず、西武池袋線の練馬から乗り換えて、大江戸線の赤羽橋で下車すると、東京タワーが目の前に迫ってくる。

東京タワーをここまで間近に見るのは、恐らく40年ぶりくらいのこと。
昭和の子どもの頃の思い出が蘇ってくるようで、急に懐かしい気持ちにさせられる。

そして、真っ先に頭に浮かんできたのは、東京タワーを舞台にした映画のワンシーン。
野村芳太郎監督・緒方拳主演の『鬼畜』である。妾に産ませた3人の隠し子を本宅に置いて行かれ、激昂する妻に促され、次々に遺棄していく気の弱い男の物語。
真ん中の幼稚園へ入るか入らないかの女の子を、捨て子する場所に選ばれたのが東京タワーだった。
子どもながらにその意図を察知する女の子が、食堂でお子様ランチを食べながら、父親の耳元に、「お父さん、好きよ」とささやく。そうやって捨てられないように、必死に父に取り入る姿が涙ぐましい。
しかし、展望台の望遠鏡をのぞく娘を置き去りにして、男は静かにエレベーターに一人乗り込む。気づいた娘が振り向いた瞬間、エレベーターのドアが閉まる、という、何ともやるせない、痛ましいシーンである。親に捨てられた娘の、絶望的な泣き声が聞こえてくるようである。
そんな年端の頃、私も東京タワーに行ったような記憶だが、あまりに古い話でよく覚えていない。

ふと浮かんだ、大好きな映画の話をして歩いているうちに、桜田通りの一本裏手の道にある「とうふ屋うかい」に到着する。
東京タワーは、さらに近づき、そのお膝元に店はあるのだ

青空に向かって伸びる鉄塔が、こんなに天高く、突き刺すようにそびえ立っている景観は、やはり圧巻だ。

店の入り口までのアプローチは、すでに京都の風情が漂っている。

シダレザクラが多いので、春に訪れたらどんなに素敵だろう。
門をくぐってからも、さらに坂道のアプローチが続く。
まさに東京タワーの麓。山の裾野のような鉄の脚が、正面に見える。
あちこちに気を取られていると、3時ラストオーダーのランチに間に合わなくなってしまうので、早速入店する。

純和風の建物の中の装飾も、センスがいい。



予約なしで訪れたので、部屋の準備ができるまで、中庭を案内される。

ふんだんに配された緑が、初夏の光を浴び輝いて、眩しいくらいだ。




この中庭の田楽処から、作り立ての豆腐料理が、それぞれの個室へと運ばれていく。


それにしても、2000坪の広い敷地内を散策するだけで、十分満足できてしまうほど、日本庭園と数寄屋造りの建物が醸し出す風情は、格別なものがあった。


ザクロの木の下には水車が。
水車はこの一つではなく、いくつかあって、池も四方に広がり、どの個室からも、日本情趣の季節感あふれる庭を視界に収められる設計になっているようだ。
そこがホテルの直線的な並びから眺める庭だったり、ただ広く、取ってつけたように仏塔を並べている庭とは趣が違っている。

日本的な庭の景観の真髄は、自然の非対称の造形に表す、美しい流麗な線と温もりと静謐さ演出である。
土と水と樹と草花の香り。数寄屋造りの建物を繋ぐ敷石を踏みしめ、その景観を一つ一つ楽しみながら回遊すると、いつのまにか、都会の喧騒や忙しない日常から隔絶されたような異空間に居るのを実感する。

まだ食事もしていないというのに、すっかりこの料亭のコンセプトに魅せられてしまった。
控えめに植えられたアジサイも、公園などでよく見る西洋タマアジサイではなく、万葉から伝わる日本原種のものが使われているのが、またニクイ。

こんな個室で食事ができたら・・・

中庭の散策を終えフロントに戻ると、隣りの棟の階にある個室を案内された。
渡り廊下のガラス越しに、先ほどの中庭とはまた別の日本庭園が見える。
秋田から取り寄せたという、三千人分の酒倉の展示部屋を通り抜ける。


すると、何やら、旅気分の個室に着いた。

二階からの眺めもなかなかのもの。
ガラス越しに見えた風情ある庭が眼下に広がっていた。

そして、落ち着いた数寄屋造りの部屋で、いよいよランチコースが始まる。
その前に季節のフルーツジュース(ピーチパイン)をいただくが、これが抜群に美味しくて、初っ端からやられてしまった感じ。

平日限定の一番お手頃な竹コースの献立。
約2時間かけて、順繰りに仲居さんが運んでくる御もてなし料理を賞味する。
翡翠なす

あげ田楽

お造り


牛柔らか煮とまと

湯葉とろろ、鱒木の芽すし、百合根かきあげ、新丸十


ここで名物の豆水とうふであるが、一人分は1200円を追加して、じゅんさい入りの冷たい豆腐に替えてもらった。
仲居さんが両方を取り分けてくれたのがありがたい。
名物 豆水とうふ
この辺りで、けっこう満腹に近く、ご飯ものまで手が回るかと思いきや、一粒残らず完食。


しらすご飯、赤だし、香の物


ほうじ茶水ようかん

最初から最後まで、どれもこれも美味しくて、思わず溜息が洩れるほどだった。
日本料理の素材と出汁のうま味をしっかり味わうことができた。
やはり、あげ田楽と豆水のとうふは絶品だ。

それにしても、この料亭のオープンは2005年、つまり、まだ12年しか経っていないのに、部屋の造りや欄干の木造部分などを見ても、いい具合に年季が入っていて、老舗旅館のような古き良き伝統を感じさせるのが、不思議でたまらない。
仲居さんに訊ねると、具体的な話は聞けなかったが、全国から古い建物や建材などを集めたようで、完成までに3年を要したとのこと。
日本庭園に関しては、どう見ても、どこぞの藩邸跡の大名庭園をベースにしていると思いきや、元はボーリング場やゴルフ場だったという。
つまり、東京タワーのお膝元で、ゼロベースから、ここまで江戸の風情、日本情趣を醸し出す異空間を創り上げた設計力、構築力に、感服してしまった。

お腹も心も満たされて、再び廊下から庭を眺める。
左上の2階の部屋が、食事をしていた場所だろうか。

会計を済ませて店を出ると、眼前で草木のが輝いていた。
入店の際に素通りした前庭を、名残惜しんで散策してみる。

朱色と鯉の錦が、やはり古都のイメージをそそる。




それにしても、たくさんの鯉が渦を巻くように泳いでいるのを間近で見るのは壮観だ。
と、その瞬間、全ての鯉が橋の下の方に向かって、ものすごい勢いで一斉に泳ぎ出したのにはびっくりした。一体何があったのか?
鯉の生態については知る由もないが。


既に5時を回っているので、灯りも点き始めた。
今度は東京タワーを背に、ゆっくりと坂を下っていく。


この坂にも、ちゃんと名前がつけられていた。


見れば見るほど、その計算され尽くした創り、演出力には驚かされた。
しかし、プロフェッショナルなのは、庭や建物の造りだけではなかった。
ど真ん中に美味しい料理があり、ちょっと贅沢のつもりが、その数倍の贅沢な時間を味わせてくれるからこそ、来客が絶えないのだろう。
間違いなく来た人はリピーターになるはず。


世界の名物 東京 芝 とうふ屋 うかい
~時を越えて江戸文化の粋を堪能する美食の空間~

日常の喧騒から離れ、長屋門をくぐると、四季折々に豊かな表情をみせる、広大な日本庭園が目の前に。
ゆったりとした数寄屋造りの個室に、和の建築の魅力に触れる、漆塗りの美しい回廊。
二百年の時を紡いだ伝統を受け継ぐ、安らぎとおもてなしの空間がここにあります。
豊かな緑と江戸情緒の中で、こだわりのうかい豆腐と、厳選された旬の美味を味わう、
かけがえのないひとときをお過ごしください。(「ぐるなび」の紹介文より)

久々に居心地の良い空間で、食事をしながらゆったりとした時間を過ごせて、今日は大満足。

帰りは、赤羽橋とは反対の大門駅へと向かい、増上寺に寄ってみる。
歌川広重の名所江戸百景の「増上寺塔赤羽根」と見比べてみようなどと思っていたが、そんな時間も、そもそも目利きもない。
それより、空模様が怪しくなってきた。
修復中の重文・三解脱門を撮って、慣れない大門駅までの道を探しているうちに、大粒の雨が降ってきた。
激しく降り始める前に、何とか地下鉄に乗り込む。

帰って来てネットで調べて見ると、「とうふ屋うかい」について、納得の記事を見つけた。

うかい鳥山のオーナーと藤森照信氏が対談

つまりここは、数年で消えてしまう店が多い中、「今つくっているものが100年たっても、びっくりするものであるか」という、鵜飼社長の心意気、信念で生まれた、渾身の美食空間だったのだ。
そうしたコンセプトを予め知らずとも、誰もがその心意気を感じ取ることができるのが、この店の凄いところ。

やはり、高尾の「うかい鳥山」にも行きたくなった。
元々そこを考えていたが、ちょっと遠いのでパスしたが、何とか都合をつけていく価値は十分ありそうだ。
今度は私の誕生日にといきたいところだが、盛夏なので、せっかくの紅葉シーズンまで待つとしよう。
食欲の秋が楽しみだ。








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